ライドシェアという言葉を聞く機会が増えたものの、仕組みやタクシーとの違いが分かりにくいと感じていませんか。
たとえば、
- 海外のライドシェアと日本の制度はどう違うのか
- 自家用車で人を運べる仕組みは本当に安全なのか
- 日本ではどこまで利用できるのか
といった疑問を抱く方は多いはずです。
この記事では、日本交通横浜監修のもと、ライドシェアの基本的な意味、日本で導入されている制度、海外との違いを初心者向けにタクシー業界からの目線で解説します。利用者・ドライバー双方のメリット、課題、安全性のポイント、さらに今後の法整備の方向性までやさしく解説。ニュースだけでは理解しにくい“日本のライドシェアの全体像”をつかめる内容になっていますのでぜひご覧ください。

古川 篤志
【日本交通横浜㈱ 統括本部長】
2006年に都内日交グループ会社ワイエム交通㈱へ乗務員として入社。現場経験を積みながら運行管理者、代表取締役を歴任し、2021年からは日本交通グループ関西の執行役員本部長として勤務。2023年より日本交通横浜㈱に異動し、現在は統括本部長として会社全体の運営と採用に力を入れています。
運行管理者(旅客)の資格を持ち、採用担当としては5年間で年間230名の採用、年間142名の面接を経験。現場と経営の両方を知る立場から、これからタクシードライバーを目指す方々に安心して入社いただける環境づくりを心がけています。
ライドシェアとは?基本的な意味と仕組み

ライドシェアの定義
ライドシェアとは、自家用車を利用し、移動したい人と運転者をマッチングするサービスを指します。一般的なタクシーのように事業用車両を使うのではなく、プラットフォームを介して「乗せたい人」と「乗りたい人」をつなぐ点が特徴です。海外では日常的に利用されており、移動手段の一つとして市民に定着しています。
アプリでのマッチングの流れ
利用者はアプリで目的地を入力し、周辺にいるドライバーを検索します。依頼が成立すると、車両の位置情報、料金、到着予定時刻などが画面上に表示され、そのまま乗車まで進めます。移動後の支払いはアプリ内で自動処理されることが多く、現金の受け渡しを必要としません。アプリが利用者とドライバーの両者を管理する仕組みが基盤となっています。
タクシーとの法的な違い
海外と異なり、日本では白ナンバー車での有償運送が原則として禁止されています。道路運送法で取り締まりの対象となるため、一般ドライバーが自由にライドシェアを行うことはできません。ここが最も大きな違いで、日本のライドシェア議論を理解するうえで重要な前提となります。
日本と海外のライドシェアの違い
海外における一般的なモデル
海外では、個人ドライバーが自家用車を使って有償の移動サービスを提供するモデルが主流です。アプリ企業が安全基準を設定し、評価システムによってサービス品質を担保しています。利用者が評価を確認しながら配車を選択できる仕組みが、普及拡大を支えてきました。
日本で普及が進まない背景
日本では白タク行為が禁止されており、海外のような「自由参入型のライドシェア」は法律上認められていません。タクシー事業者が地域に広く存在していることも普及を抑える要因です。既存の交通網が整っている都市部では、ライドシェアの必要性が限定的と判断されている側面があります。
日本独自の枠組み「日本版ライドシェア」
日本で実施されているライドシェアは、あくまで限定的な範囲に限られます。特例制度のもと、自治体やNPOが運行管理を担い、登録ドライバーが条件付きで送迎する仕組みが中心です。海外型とは構造そのものが異なり、日本の法制度に合わせて運用されています。
※ここに図解を挿入:「海外型ライドシェアと日本型ライドシェアの比較表」
日本で導入されているライドシェアの種類と制度
自家用有償旅客運送(過疎地・交通空白地)
交通空白地で住民の移動を確保するために導入されているモデルです。自治体が運行管理を行い、住民ドライバーが送迎を担当する仕組みが一般的です。通院や買い物など日常生活に必要な移動を支える役割が大きく、地域公共交通の重要な一端を担っています。
公共ライドシェア(自治体主導)
自治体がタクシー事業者と連携し、予約制や相乗り形式で運行する方式もあります。アプリを用いる場合でも運行管理は事業者側が担い、安全性や車両点検の基準が確保されます。地域の実情に合わせた運行がしやすい点が特徴です。
観光地での導入例
観光客向けに短距離移動を効率化するため、特定ルートのみライドシェアを運行するケースがあります。混雑緩和や移動の円滑化を目的としており、地域の観光政策とセットで導入されています。一般ドライバーが自由に参入する方式ではなく、あくまで管理主体が存在する形で運用されます。
利用者側から見たライドシェアのメリット
移動手段の選択肢が増える
タクシー不足や公共交通の本数が限られている地域では、ライドシェアが新たな移動手段として機能します。アプリで完結する手軽さと、事前に料金がわかる安心感から、利用者の満足度が高いとされています。特に地方では、生活インフラとしての役割が期待されています。
料金や時間の透明性
アプリ上で乗車前に料金が提示されるため、利用者は移動コストを事前に把握できます。地図上で車両の位置がわかる機能により、待ち時間の見通しが立てやすい点も利便性を高めています。金額や到着時間の予測がつきやすいことは、利用者にとって大きなメリットです。
ドライバー側から見たライドシェアのメリット
副業として一定の収入を得られる可能性
海外型ライドシェアでは、個人が空き時間を活用して副収入を得る働き方が一般的です。日本では自由参入型ではないものの、地域によっては登録制の仕組みを通じてドライバーとして参画できる場合があります。本業の合間で働ける柔軟さが魅力に挙げられています。
自家用車の有効活用
登録された範囲内で運行できる場合、日常的に使用している車両を運送に活かせる点がメリットです。保有する自家用車を単なる移動手段としてではなく、地域サービスの一部として役立てられる点に価値を見出す人もいます。車両の稼働率を高めたい人にとっては利点になります。
アプリ上での評価が可視化される
利用者とドライバー相互が評価し合う仕組みは、サービス品質の向上につながります。丁寧な運転や適切なコミュニケーションがポジティブな評価に反映され、結果的に利用依頼につながることがあります。透明性のある仕組みは利用者・提供者双方の安心感に寄与します。
日本で議論されているライドシェアの課題・デメリット
安全性と事故時の対応
海外ではライドシェア車両の事故が社会問題化した例があり、日本でも安全性への懸念は大きな課題です。一般ドライバーが有償運送を行う場合、運転技術のバラつきや車両整備の状況が問題視されやすく、事故時の責任範囲や保険の適用なども複雑になります。利用者の安心を確保するためには、明確な基準と管理体制が不可欠です。
白タク行為との線引き
日本では無許可で有償運送を行う行為が厳しく規制されています。ライドシェア議論が盛り上がるほど、違法な白タク行為が増えるリスクも否定できません。健全なサービスとして定着させるためには、法制度と運用基準を明確に区分し、利用者が安心しやすい仕組みを整える必要があります。
運行管理・アルコールチェック・車両点検の問題
タクシーは法令に基づく厳格な管理を受けていますが、一般ドライバーが同水準の管理を行うことは容易ではありません。日常的なアルコールチェック、車両の点検記録、運行管理者の配置など、運送事業に必要な仕組みをどこまで担保できるかが議論の中心です。安全対策を誰がどのように管理するかは、重要な論点として扱われています。
国のライドシェア方針と今後の動向
政府の慎重なスタンス
国土交通省は、安全性と既存交通の影響を考慮しつつ、地域の交通課題に応じた限定的な導入を進める方針を示しています。全面的な自由化ではなく、あくまで「交通手段が不足するエリアを補うための制度」という位置づけです。都市部における全面解禁には慎重な姿勢が続いています。
地域主導の実証実験が増加
交通空白地や観光地を中心に、自治体が主導する実証実験が増えています。これにより、地域の需要に応じた柔軟な運行方式を模索できるようになりました。地域ごとに課題が異なるため、全国一律の制度ではなく、段階的な導入が適しているとされています。
法制度の見直しが進む可能性
今後は、海外の事例を参考にしながら、日本の法制度に即した形での緩和が検討される可能性があります。ただし、安全確保と運行管理の体制を整えたうえでの限定的な緩和が中心になると予測されています。利用者と地域社会の双方にとって安心できる制度設計が求められます。
ライドシェアとタクシーはどう使い分けるべきか

安全性とサービス品質を重視する場合
タクシーは国の基準に基づいて運行管理が行われており、車両点検や乗務員の健康管理、アルコールチェックが義務づけられています。輸送の品質や安全性を最優先したい旅行者や高齢者、医療機関への送迎などでは、信頼性の高い選択肢となります。
地域特性に応じた使い分け
都市部ではタクシーの供給が整っているため、ライドシェアの必要性は限定的ですが、地方ではライドシェアが生活移動の補完に適しています。地域特性によって最適な移動手段は異なるため、多様なサービスが併存する形が利用者にとって最も望ましい姿です。
移動目的に応じた選び方
短距離移動や特定ルートの移動にはライドシェアが適していますが、長距離移動や料金に関する透明性を求める場合はタクシーが向いています。利用目的ごとに適したサービスを選択することで、より安全で快適な移動が可能になります。
| 比較項目 | タクシー | ライドシェア |
|---|---|---|
| 安全性 |
・国の基準に基づく運行管理が義務づけられている。 ・車両点検、健康管理、アルコールチェックなどが制度化。 ・高齢者や医療機関への送迎など、安全重視の利用に適する。 |
・運営プラットフォームが安全基準を設けているが、 ・国・自治体ごとのルールや制度が発展途上の場合も。 ・事前レビューや評価機能でドライバーを選べるサービスもある。 |
| 運行管理 |
・事業者による運行管理者の配置が義務。 ・勤務時間・休憩・点呼など、法令に基づく管理体制。 ・営業区域や乗車場所も明確に定められている。 |
・アプリ上で稼働時間や運行実績を管理。 ・個人ドライバーが中心となるケースが多く、 ・実際の運転経験や対応はドライバーごとに差が出やすい。 |
| 料金体系 |
・初乗り運賃と距離・時間による加算制が基本。 ・自治体ごとに上限・下限が定められ、料金は比較的明瞭。 ・深夜割増・迎車料金などもルールが明示されている。 |
・時間帯や需要に応じた「変動料金制」が多い。 ・混雑時は割高になる一方、空いている時間帯は割安になることも。 ・アプリ上で見積もり金額や上限額を事前確認できる場合が多い。 |
| 向いている場面 |
・安全性・信頼性を最優先したいとき。 ・高齢者や子ども連れ、病院・公的機関への移動。 ・料金のルールがはっきりした移動を希望するとき。 |
・短距離や特定エリア内の気軽な移動。 ・タクシーがつかまりにくい時間帯・地域での移動。 ・アプリ決済でスムーズに乗りたいとき。 |
まとめ|日本のライドシェアは「限定的な導入」の段階にある
ライドシェアの役割と現状
ライドシェアは、交通空白地やタクシー不足地域の生活を支える手段として導入が進んでいます。海外のような自由参入型ではなく、日本の法制度に合わせた限定的な運用にとどまる点が特徴です。安全性・運行管理の課題は残されているものの、地域交通を補完する役割は今後も期待されています。
利用者と地域にとっての価値
利用者にとっては移動手段の選択肢が増え、地域にとっては交通インフラの強化につながります。地域の需要に応じた制度設計ができれば、新しい形の移動サービスとして定着する可能性があります。

